my mug
'Ren' 'Anzu' 'Koharu'
「香蘭社」について

2023.06.25

my mug シリーズの'Ren' 'Anzu' 'Koharu'は、イイホシユミコが、形と絵付けのデザインを手掛け、佐賀県有田の香蘭社に製品作りを依頼しました。清潔感のある白磁の白、精緻な上絵付け、軽やかさを醸す薄さ。その特徴すべてが、日本における磁器製造の始まりの地で、脈々と受け継がれてきた技術によって実現しています。

'Ren' 'Anzu' 'Koharu'それぞれの個性

マグはとりわけパーソナルなアイテムであり、使う人を映し出す愛着のある存在であると捉えた my mug シリーズ。'Ren' 'Anzu' 'Koharu'と名付けられた姿には、三者三様の個性があります。

'Ren'には、白磁に映えるブルーのラインが三本。有田焼では、青い線は染付と呼ばれる下絵付けにて行われるのが一般的ですが、'Ren'は上絵付けにて仕上げました。下絵として施すよりも、きりっと締まった表情になります。

'Anzu'には細い三本線の間にピンクとグレーのライン、合計五本の線が描かれています。線の数もさることながら、近接する複数の色が重ならないように引くため、優れた技量が必要とされます。それぞれの絵の具の伸びも異なり、円周も長く、「杏は 3 人の中で最も手がかかる」と絵付け職人泣かせのデザイン。不透明で均質な色味が特徴の洋絵の具を使用したモダンな風情です。

'Koharu'には、有田焼で伝統的に使われてきた和絵の具の赤、花赤と呼ばれる色で濃淡の線を描いています。落ち着いた趣のやわらかな赤に、気品が感じられます。日常使いのアイテムでありながらも、使うときに気持ちが高まるようなマグとして、特別感のある器に仕上がりました。

まっすぐに線を引く。
香蘭社の絵付け室にて

'Ren'のカップの内側には三本の細いライン。この線は、香蘭社の絵付け職人による手描きで施されています。まずは焼き上がったつるんと真っ白な器を筋車と呼ばれる手ろくろの上にのせ、中心に据えます。器の位置、手と筆の位置がしっかり決まったら、筋車を回しながら筆を当て、その回転に沿ってラインを引いていきます。

筆先の微妙な揺れが、水平なラインに影響する繊細な作業。カップ自体にも目に見えないレベルの歪みがあるため、筆をその都度変えて調整したり、手の動きで補ったりしながら描き進めます。線の描き始めと終わりがわからないように繋げる精緻さも、香蘭社ならではのこだわり。

「単純に見えてとても緊張する作業です。有田焼には線のみの装飾は、高台に添えるくらいの使い方が多いのですが、'Ren'も'Anzu'も'Koharu'も、ラインだけで勝負するデザイン。ごまかしの効かない難しさがあります」と、この道29年の絵付け職人。白磁に華やかな絵付けが求められる世界にあって、ただまっすぐに引いた線のみという表現は稀で、シンプルだからこそ高い技術力が要求されます。

カップの縁の部分に視線を移すと、ここにも一本のラインがあります。淵仕上げといって'Ren' 'Anzu' 'Koharu'の場合は、本金の金液を縁に塗っています。全体の佇まいを引き締める、渋みのある金色です。

上絵付けの工程には、高台回りにもラインを施す作業があります。'Ren'はブルー、 'Anzu'は金、 'Koharu'は赤の線を入れます。見えにくい足元までしっかり手描きです。

有田伝統の特別な‘花赤‘の彩り

有田焼伝統の上絵の具、花赤で上絵が施された'Koharu'。香蘭社自社調合の絵の具を溶き、まずは中央の太い線をぐるりと一周引きます。その後、筆を変えて上下の細い線を。最初の線は淡く、後に引いた上下の線は濃くと、濃度調整をそれぞれ変えた花赤の絵の具で描き分け、ラインのデザインが完成します。

濁りのない白磁の白が生まれる場所

'Ren' 'Anzu' 'Koharu'の器の肌は、凛として、抜けるような清潔感のある白。原料には、天草陶石という熊本県天草産の陶石を使っています。単体で磁器を作れる優れた原料で、濁りがなく透明感のある仕上がりが特徴。この原料由来の美しい白に、釉薬を軽めにかけてやわらかな印象に仕上げています。単体で作れる、ということは、他の原料の種類を混ぜない分、調整が効かず、出来を原料の質に委ねるということ。自然の産物から安定した品質を生み出すため、原料の吟味にも力を注ぎ、水準に達したものを使用しています。

手にしたときに重みを感じない、軽やかさも特徴。強度を保ちながら、いかに薄く作れるかを追求してきた香蘭社の技術によるものです。yumiko iihoshi porcelain の器の中で、最も薄手。

有田皿山通りに面した香蘭社有田本店。皿山とは、陶業地を示す言葉で、通りには商社の店舗やギャラリー、窯元など有田焼の事業者が軒を連ねます。1689年、初代深川栄左衛門が有田にて陶磁器製造を開始し、1875年、8代深川栄左衛門が九州初の法人となる香蘭社を設立。創立140余年。

有田皿山通りを東に進んで、坂を登っていくと右手に現れる泉山磁石場。1616年、朝鮮人陶工・李参平により、日本で初めて磁器の原料となる陶石が発見された場所です。ここから磁器製造の歴史が始まりました。

Photo:koichiro fujimoto